「お客様は神様です」
もし、あなたがこの言葉を額面通りに受け取り、すべてのお客様に平等に尽くそうとしているなら……。
厳しいことを言いますが、あなたのお店は遠からず潰れます。あるいは、社長であるあなたが過労で倒れます。
お客様(神様)ですか?」
中小企業の経営戦略において、最も重要な決断。
それは「誰に売るか」ではありません。「誰には売らないか」を決めることです。
今回は、多くの経営者が陥る「全方位外交」の罠と、勇気を持って客層を絞り込み、価値観の合う顧客だけを「えこひいき」する「客層戦略」についてお話しします。
1. 「誰でもいいから来てほしい」が地獄の入り口
開業当初や、売上が苦しい時期は、どうしても「誰でもいいから来てほしい」と思ってしまいます。
しかし、経営のセオリーから言えば、これは「自滅への第一歩」です。
なぜなら、私たち中小企業には「リソース(時間・人・金)」に限りがあるからです。
あなたの店の席数は無限ではありません。
もし、10席しかない店に、「水だけで2時間粘る客」や「些細なことでクレームをつける客」が居座っていたらどうなるでしょうか?
「価値観の合わない客」を受け入れるということは、物理的に「大切な常連様」を追い出しているのと同じことなのです。
2. 実例:当事務所があえて「客を選んだ」理由
私たちの事務所でも、最近ある決断をしました。
飲食店様向けの「月額3万円プラン」の募集にあたり、ターゲットを明確に絞り込んだのです。
ITスキルが完璧であること……ではありません。
「ITツールを使って、効率化しようと努力してくださる方」です。
- 「これまでのアナログなやり方を変えたくない」という方はお断りします。
- 「苦手だけど会社の未来のために挑戦したい」という方は全力でサポートします。
一見、ハードルが高いように見えるかもしれません。
しかし、この条件に共感してくださるお客様は、「効率化」の価値を理解しようとしてくれる「前向きな経営者」です。
「教えてもらいながらやってみます」と言ってくださる方。
彼らだけを相手にすることで、私たちは低価格でも高品質なサービスを提供し続けることができます。
「客を選ぶ」ということは、「冷たく切り捨てる」ことではありません。
「同じ方向を向いて歩けるパートナーを探す」ということなのです。
3. あなたの店を蝕む「クレクレ君」の正体
あなたの店にも、こんなお客様はいませんか?
- 「もっと安くならないの?」と常に値引きを要求する
- メニューにない無理な注文を繰り返す
- スタッフの些細なミスに対して怒鳴る
彼らは、お金は落としませんが、要求(コスト)だけは一人前です。
さらに恐ろしいのは、彼らが「スタッフのモチベーション」を破壊することです。
社長の仕事は、売上を上げることだけではありません。
「モンスター客から、大切な従業員を守ること」も、重要な職務です。
4. 「平等」は悪である。優良顧客を「えこひいき」せよ
悪い客をお断りした後、空いた時間と情熱をどこに向けるべきか。
それは、残ってくれた「優良顧客(ファン)」です。
経営戦略の鉄則に、「客層戦略の要は、えこひいきにある」という教えがあります。
「あのお客様は特別なんだ」と周りに分かるくらいで丁度いいのです。
上位20%の優良顧客が、売上の80%を作ってくれます。
この20%の人たちを、徹底的に愛し、優遇すること。これが生き残るための鉄則です。
5. 「客層」を良くすれば、利益も満足度も劇的に改善する
「客を絞る(選ぶ)」ことの最大のメリットは、お店の利益率向上だけではありません。
実は、「選ばれたお客様(ファン)」にとっても、計り知れないメリットがあるのです。
- 利益率が上がる:
無駄な対応時間が減り、人件費効率が良くなる。 - スタッフが定着する:
ストレスが減り、楽しく働ける。 - ブランドができる:
「良い客しかいない店」という評判になる。
- 居心地が最高になる:
騒ぐ客がいないので、ゆっくり楽しめる。 - 提供が早くなる:
トラブル対応がない分、料理がすぐ出る。 - 価格が維持される:
無駄なコストが減るため、値上げされずに済む。
つまり、客層を絞ることは、
「あなたの大切な常連様を不快なノイズから守り、エコノミークラスの価格でファーストクラスの居心地を提供する」
ための唯一の方法なのです。
6. 結論:あなたは、誰の役に立ちたいですか?
客層を絞ることは、怖いことです。勇気が要ります。
しかし、それは「あなたの店の方針(旗)」を明確に立てることでもあります。
「当店は、こういうお客様のための店です」
「こういうお客様となら、最高の仕事ができます」
そう宣言した瞬間、その旗に共感する人だけが集まってきます。
その集団こそが、あなたのお店を支える「ファン」です。
さあ、勇気を出して。
今日から、合わないお客様には、丁重に、しかし毅然と、お引き取り願いましょう。
そして、空いたその手で、あなたのお店を愛してくれる大切な常連様を、思い切り抱きしめてください。
あなたの店の「ファン作り」をサポートします
当事務所は、ただ数字を計算するだけではありません。
「誰をターゲットにし、どうやって利益を残すか」という戦略から一緒に考えます。


