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2店舗目を出していい店、ダメな店。社長が現場を離れると売上が落ちる本当の原因【多店舗化の罠】

「おかげさまで1店舗目は順調です。毎日満席だし、そろそろ2店舗目を出そうと思います!」

顧問先からこの言葉を聞いた時、私は税理士として、まず「おめでとうございます」と言います。
しかし、その直後に、必ずこう問いかけます。

「社長、もし明日から社長が1ヶ月ハワイに行っても、
1店舗目の売上は1円も落ちませんか?」

もし、この問いに「いやぁ、自分がいないと味も接客も落ちるから…」と答えるなら、2店舗目を出すのは時期尚早です。
今、手を広げれば、高い確率で両方の店が共倒れします。

飲食店経営において、「1店舗の成功」と「多店舗化の成功」は、競技種目が全く違います。
前者は「個人の力(職人芸)」で勝てますが、後者は「組織の力(仕組み)」がないと勝てません。

今回は、多くの繁盛店が陥る「2店舗目の壁」の正体と、社長が現場を離れても勝手に売上が上がり続ける「再現性のある仕組み」の作り方について解説します。

1. なぜ「社長がいないとダメ」なのか? 1店舗目成功の正体

まず、残酷な現実を直視しましょう。
あなたの1店舗目が繁盛している理由。それは、「立地が良いから」でも「味が天才的だから」でもないかもしれません。

最大の理由は、「社長であるあなたが、現場にいるから」です。

社長プレミアム

誰よりも早く来て仕込みをし、誰よりも愛想よく接客する。
そして何より、お客様は「あなた(社長)」に会いに来ています。

これは、商品力に「社長プレミアム」という付加価値が乗っている状態です。
しかし、2店舗目を出すということは、物理的に社長が現場(1店舗目)から消えることを意味します。

その瞬間、「社長プレミアム」が剥がれ落ちます。
残されたスタッフが同じクオリティで働けなければ、お客様は「あ、味が落ちたな」と感じ、離れていきます。

2. 「属人性」を排除せよ。再現性を作る3つのマニュアル

2店舗目を出す資格があるのは、「誰がやっても、80点の合格点が出せる仕組み」を作れた店だけです。
これを「再現性」と呼びます。

🍳 ① 味の再現
「塩少々」は禁止。
「塩3.5g」「中火で2分30秒」と全て数値化する。
🤝 ② 接客の再現
「グラスが空いたら30秒以内に注ぐ」など、行動ベースでルール化する。
📊 ③ 数字の管理
クラウド会計やPOSレジを導入し、遠隔でも数字が見える環境を作る。

3. 「2店舗目の壁」という財務的な地獄

次に、お金の話をします。
実は、経営において「2店舗目」の時期が、資金繰り的に最も危険だと言われています。

店を増やしたのに利益が減る?

1店舗の時は、「社長の人件費」で店長業務をカバーしているため、利益が出やすいのです。
しかし、2店舗目を出すと、1店舗目に「雇われ店長」を置くため、新たに月30〜40万の人件費が発生します。

項目 1店舗時代 2店舗時代
体制 社長が店長 店長を雇用 + 2号店
利益の内訳 1号店:50万
(社長給料込)
1号店:10万 (人件費増)
2号店:10万 (不安定)
合計利益 50万円 20万円 📉

なんと、店を増やしたのに、手元に残る利益が減ってしまうのです。
さらに、2店舗分の借入返済がのしかかります。

この「地獄」を抜けるには、一気に3店舗以上にして規模の経済を効かせるか、高収益な1店舗を磨くか。中途半端な「2店舗」が一番苦しいのです。

4. 社長の仕事を変える覚悟はあるか?

多店舗展開をするということは、社長の仕事が根本から変わることを意味します。

👨‍🍳 1店舗の社長 最高の料理人
最高のサービスマン
👔 多店舗の社長 採用・教育
資金調達・戦略家

もう、現場でフライパンを振っている時間はありません。
「現場を捨てる覚悟」はありますか?

「自分が作った料理を食べさせたい」という職人としてのエゴを捨て、「誰が作っても美味しい仕組み」を作ることに喜びを見出せますか?

5. 出店前にチェックすべき「GOサイン」の5条件

最後に、2店舗目を出してもいいかどうかのチェックリストを提示します。
すべてに自信を持って「YES」と言えるなら、成功確率は高いでしょう。

  • 【右腕】 理念を共有できる「店長」が育っているか?
  • 【マニュアル】 あなたがいなくても80点以上出せる「仕組み」があるか?
  • 【資金】 2店舗目が半年赤字でも潰れない「現預金」があるか?
  • 【動機】 「物件が空いたから」ではなく「勝てる確信」があるか?
  • 【覚悟】 現場を離れ、管理と教育に専念する覚悟があるか?

6. 結論:多店舗化は「コピー&ペースト」である

多店舗展開は夢のある挑戦です。
成功の鍵は、1店舗目を「完璧な原本(オリジナル)」に仕上げることです。

原本が未完成のままコピー機(多店舗化)にかければ、不鮮明なコピーが量産されるだけです。
しかし、原本が完璧に仕組み化されていれば、あとはそれを丁寧にコピーしていくだけで、成功は約束されます。

2店舗目を目指す社長の「右腕」になります

「うちの店は、まだコピーできる状態じゃないな……」
そう感じたなら、まずは1店舗目の「仕組み化」から始めましょう。

当事務所は、単なる税務だけでなく、クラウド会計による数字の見える化など、
「再現性のある経営基盤作り」もサポートしています。

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