「売上が1,000万円を超えたら、そろそろ法人化(株式会社)ですよね?」
「友達の社長が、会社にしたら税金が安くなるって言ってました」
もし、この言葉を鵜呑みにして、計算もせずに法人化しようとしているなら……。
そのハンコを押す前に、電卓を叩く必要があります。
安易な法人化は、あなたの手取りを激減させる「罠」になります。
かつては「売上1,000万円」が鉄板のラインでしたが、インボイス制度の導入や社会保険料のアップにより、その常識は完全に崩壊しました。
今回は、税理士の視点から、飲食店が法人成りする本当の「損益分岐点」と、そもそも「インボイスに登録すべき店・そうでない店」の見極め方について、徹底解説します。
1. 「売上1,000万円」神話の崩壊と、インボイスの影
まず、なぜ昔から「売上1,000万円」が基準と言われてきたのでしょうか。
それは、「消費税」のルールに理由があります。
かつての勝ちパターン
個人事業主で売上が1,000万円を超えると、その2年後から消費税を払う義務が発生します。
しかし、ここで法人化すると「新しい別人格」が生まれたことになるため、設立から最大2年間、再び消費税が免除されるというボーナスタイムがありました。
インボイス制度でどう変わった?
しかし、インボイス制度が状況を変えました。
インボイスを発行するためには、売上が1,000万円以下でも、自ら手を挙げて「課税事業者」になり、消費税を払わなければなりません。
つまり、「法人化しても、インボイス登録したら消費税の免税メリットは消える」のです。
今、法人化を検討するなら、消費税メリットよりも、後述する「社会保険料」と「インボイス登録の必要性」をセットで考えなければなりません。
2. そもそも、あなたの店は「インボイス」が必要ですか?
法人化の前に、まずここを決めなければなりません。
「周りがやっているから」で登録すると、年間数十万円の利益をドブに捨てることになります。
判断基準は、売上規模ではなく「お客様は誰か?」です。
お客様のメインが「法人(会社)」である
(例:接待で使われる寿司屋、ビジネス街のランチ、高級店)
理由:お客様が経費で落とす際、インボイスがないと嫌がられるため。
お客様のメインが「一般個人」である
(例:ラーメン屋、カフェ、学生向け居酒屋、住宅街の定食屋)
理由:一般客は経費精算しないので、インボイス番号の有無を気にしないため。
無理に登録して消費税を払うより、免税のまま利益を守る方が得策です。
「他にはない強み」がある店は、登録不要
実は、法人客がメインであっても、インボイスに登録しなくていいケースがあります。
それは、「独自のウリ(強み)」がある店です。
「この店の、この料理が食べたい」「あのマスターに会いたい」
そう思われている店なら、お客様はインボイスが出なくても来店します。
「税金で損をしてでも行きたい」と思わせる商品力があるなら、インボイスの有無は関係ありません。堂々と免税事業者を貫いてください。
3. 法人化の最大の敵は「社会保険料」である
インボイスの次に立ちはだかるのが、「社会保険(社保)」です。
ここを理解せずに法人化すると、手元資金が一気に枯渇します。
| 項目 | 個人事業主 | 法人(会社) |
|---|---|---|
| 加入義務 | 従業員5人未満なら 任意(入らなくていい) |
社長1人でも 強制加入 |
| 保険料 | 国民年金・国保 (上限あり・比較的安い) |
厚生年金・健保 (給料の約30%・高い) |
例えば、社長の月給を50万円に設定したとしましょう。
年間600万円の給料に対して、約180万円もの社会保険料(会社負担+個人負担)が消えていきます。
「法人化で税金が50万円安くなった!」と喜んでいても、社保が180万円増えていたら、トータルで130万円の大損です。
4. シミュレーション:本当の損益分岐点は「利益〇〇万円」
では、具体的にどのくらい稼いでいれば、社会保険料の負担をカバーしてプラスになるのでしょうか。
800万円〜900万円 を超えたあたりです。
理由は、個人の「所得税」と、会社の「法人税」の税率構造の違いにあります。
- 利益500万円: 個人事業主のままが正解。(社保負担で負ける)
- 利益800万円: トントン。(将来拡大するなら法人化もアリ)
- 利益1,000万円以上: 法人化の圧勝。(個人の税率が高すぎるため)
5. それでも法人化すべき「攻めの理由」
ここまで「お金(節税)」の話をしましたが、あえてコストを払ってでも法人化すべきケースがあります。
特に「人」と「融資」です。
① 人材採用での圧倒的有利
今の若手は、お店選びで「社保完備」を絶対条件にします。
優秀な店長候補や料理長を採用したいなら、法人化して社保を完備することは、最強の採用戦略になります。
② 融資の枠が広がる
銀行は「個人」よりも「法人(企業)」を信用します。
2店舗、3店舗と拡大するために、数千万円単位の融資を引きたいなら、法人化は必須のパスポートです。
6. あなたの店はどっち? 最終チェックリスト
7. 結論:電卓を叩いてからハンコを押せ
法人化は、RPGで言えば「上級職への転職」です。
使える魔法(節税)も増えますが、装備にお金がかかり、敵(社会保険料)も強くなります。
今のあなたのレベル(利益・組織力)で転職して、勝てるかどうか。
それは、感覚ではなく「シミュレーション」で分かります。
あなたの店の「未来」を試算します
「うちは利益800万もないけど、人を採りたいから法人化したい。やっていけるかな?」
「インボイス登録したら、いくら損するの?」
もし迷っているなら、当事務所にご相談ください。
「個人事業主のままの5年後」と「法人化した5年後」の手残り金額を、
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