インボイス制度の解説②

こんにちは。税理士のさとうです。

 

今日は前回に引き続き、インボイス制度についての解説をしてきたいと思います。

 

前回は消費税仕組みからインボイス制度の概要を解説しましたので、今回はそれを踏まえて免税事業者はどのように考えて行動をしていけばいいのか、について書いていきます。

この記事の目次

免税事業者の益税

前回少し触れた免税事業者の益税問題。

免税事業者は売上と一緒に消費税を受け取りますが、消費税の申告納税が不要であるため実質消費税分が手元に残り儲けとなります。

 

インボイスがはじまると、課税事業者はインボイスをもらわないと仕入税額控除できなくなるので、免税事業者が値引き交渉の対象となったり、取引から除外されることが増えていくと考えられます。

 

値引き交渉に応じた免税事業者はその分手残りが減りますので、いわゆる益税も減り、場合によっては課税事業者を選択してインボイス登録したほうがいいパターンもあります。

(課税事業者になると益税は完全になくなります)

インボイスの影響が少ない事業者

インボイスの影響が少ない事業者や業種は、免税事業者のままでいることも考えておきましょう。

 

例えば、得意先が一般消費者のようなBtoC事業は、相手先がインボイスを必要としないため、免税事業者のままでも何も問題はありません。(飲食店等の場合は、相手が事業者の場合もあるため、得意先が減る覚悟があれば免税事業者のままでもいいかもしれませんが)

 

また、競合他社がいない唯一無二の事業をされている場合、そもそも値引き交渉に応じる必要がないので免税事業者のままでも問題ないと考えます。(唯一無二の事業をやっていて、課税売上高が1,000万円超えない事業は少ないと思いますが)

 

ただBtoBの事業をされている場合は、ほとんどがインボイスを意識しないといけませんので、課税事業者になることを検討しましょう。

消費税の比較

課税事業者になると決めたとして、どれくらい負担が変わってくるのかは気になるところ。

次は、下記前提で4パターン消費税負担額の比較をしていきます。

・課税売上高1,000万円(税抜)

・課税仕入高500万円(税抜)

 

※スタンダードを①の課税事業者(原則課税)において、②③④の損得を算出していきます。

①課税事業者のため、受取った消費税100万円から支払った消費税50万円を控除し、差し引き50万円の消費税を納税するので損得なしです。

 

②免税事業者であるため、消費税の申告納税は不要となり、受取った消費税100万円から支払った消費税50万円を差し引き、残りの50万円は儲け(益税)なので得となります。

 

③インボイス開始後の免税事業者は、消費税分の請求ができない可能性があるので、受取った消費税は0円、しかし支払先は課税事業者であった場合は消費税50万円を請求されるので、差し引き▲50万円の損となります。

 

④消費税には簡易課税という、売上にかかる消費税額に業種別の控除率(みなし仕入率)を乗じて納税額を簡易的に算出する方法があり、一定規模以下(2年前の事業年度の課税売上高が5,000万円以下)の事業者はこれを選択できます。

飲食店の場合はみなし仕入率が60%となりますので、100万円-(100万円×60%→60万円)=40万円の納税。ただ、実際に支払ったのは50万円なので、60万円と50万円の差額10万円が得となります。

簡易課税の検討

上記比較した結果、インボイス後も免税事業者のままでいると損をする可能性があるので、課税事業者を選択した上で事業規模が一定以下である場合は、簡易課税を選択するのが良いと思います。

 

また、簡易課税は売上から納税金額まで計算する方式なので、誰にいくら支払ったかは関係ありません。

つまり、免税事業者から仕入等をしてインボイスをもらえなかったとしても消費税の計算には何ら影響はないということです。

 

取引の相手方と値引き交渉したり、インボイスを集めたりすることは非常に煩雑であり、小規模事業者はそこに時間をかけるのが難しいという実情を考慮すると、簡易課税を選択する理由として、税負担の有利不利だけでなく、事務処理負担を軽減できるという理由も重要な判断要素になります。

経過措置の検討

経過措置は当初3年間、免税事業者からの仕入等であっても仕入税額控除80%可となっています。

例えば自社が免税事業者で、110万円(税込)の売上があった場合、相手は消費税10万円×80%=8万円の仕入税額控除がとれる。ということは相手方は10万円 - 8万円=2万円の負担が増えているので、自社は2万円の値引きを交渉される可能性があります。

 

これに対して、自身が課税事業者(簡易課税)を選択した場合、卸売業であれば「みなし仕入率」が90%なので、10万円-(10万円×90%=9万円)=1万円の納税です。

(みなし仕入率)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6509.htm

 

ただし、消費税申告を税理士等に頼んだ場合は別途手数料がかかり、自身で申告するにしても手間はかかるということを考慮すれば「免税事業者からの仕入等であっても仕入税額控除80%可」の経過措置が続く限りは、免税事業者のままの方が総合的負担は少ないのかなと思ったりもします。

経過措置が終わると取引終了のリスクが上がる

前回の記事でもご紹介しましたが、インボイス開始後から一定期間は免税事業者からの仕入等であっても、仕入税額控除は80%~50%可能です。また、日本税理士連合会から要望もでており、しばらくは免税事業者の負担が軽減される見通しです。

 

ただ、この経過措置はいつ終わるのかは不明であり、経過措置が終わってしまったらどうなるのでしょうか?

 

経過措置が終わると、その控除できなくなった消費税分を免税事業者が負担しない限り、免税事業者は取引から除外される可能性が高いと思います。

 

インボイスが開始されて数年間の経過措置期間が設けられているにもかかわらず、その期間中に何も手を打たず、免税事業者のまま事業を続けていく。

厳しいことを言いますが、経営者のリスク管理能力が低いと言われても仕方がないのかなと。

 

いずれにしろ、現状維持をするのではなく、次の一手を考えて早め早めに動き出すことが重要です。

まとめ

今後、免税事業者が取るべき行動は何となく見えてきたのではないでしょうか。

 

結論

BtoB事業で唯一無二の事業でない場合は、消費税の課税事業者(簡易課税)を選択してインボイス登録事業者になる。

ただし「免税事業者からの仕入等であっても仕入税額控除80%可」の経過措置が続く限りは、免税事業者のままでも◯。

 

何とも歯切れが悪いまとめではありますがw

事業の内容や取引先の状況によって結論が変わることもありますので、お悩みの方は税理士に一度ご相談ください。

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